「男の子が買うにはかなり勇気がいる絵に仕上がってしまいました」と作者自ら豪語する、「ハヤテのごとく!」の絵が表紙を飾っているサンデー超増刊ゴールデンウィーク号を、ようやく購入して読むことができました。
まあ、「ハヤテ」目当てで超増刊を買うような男の子は最初からその辺の羞恥心はクリアーしているはずなので、この程度の表紙だったら全然オッケーだと思いますよ。畑先生は、自分のマンガのファンが持っている勇気と度胸に対して、もっと自信を持った方が良いと思います。
大丈夫! 彼らはみんな、もはやただ者じゃないんですよ! 畑先生のマンガが大好きな人たちは、きっと社会的な羞恥を乗り越えるために必要なスレッショルドの低さがハンパじゃない(=恥ずかしい表紙の本を買うことにためらいを感じない)連中ばっかりだと思うので、例えピンクなオーラを発しているような表紙の雑誌を買うことだって全然何ともないはずなんですよ!
オレだってそうさ!(だからオタクは迷惑がられるんだと思います)
それでマンガの中身の方ですが、これは「RADICAL DREAMERS」というサブタイトルからして、畑先生は要するに白い帽子の少女が「責任取ってね!
」と言うタイプのマンガを描きたかったんだろうなあと思いました。
あと、ハヤテとナギとマリア以外のキャラクターがほとんど出てこない(ナギを狙うマフィア以外の人間は通行人一人だけ)のが、ページ数的な制約はあるとは言うものの、ちょっと凄いかなと思ったり(違う意味で)。物語そのものはミコノス島が舞台になってますが、実質的には完全にこの三人の中で閉じた別の世界が舞台である、と言っても良いのかも知れません。
マンガの中ではハヤテが引きこもり傾向にあるナギを表に連れ出そうと頑張ってましたけど、むしろこのマンガの作品世界そのものが引きこもり傾向にあるというか、このマンガは結局この三人を中心とした閉塞空間を描くことを志向しているということを、「モブキャラがほとんど出てこない」という事実が端的に示しているのではないか? とも思いました。
このマンガ、ハヤテの目標である「借金の返済」にしろ、ナギの目標である「ハヤテとの恋愛」にしろ、あくまで内省的な世界の中で完結している『閉じた』目標であり、例えば「ラブひな」における「『考古学者になる』という自分の夢を叶えるため、ひなた荘を出て海外に留学する」みたいな、主人公が目標を達成することが作品内の閉じた世界からの脱出を意味する『開いた』目標ではないところが、「ハヤテ」という作品独特の空気のようなものを作っている一因なのかも知れません。
ちょっと漠然とし過ぎた感覚なので、他の人に判ってもらえるかどうか判らないのですが、一応気になったのでメモっておきます。
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そして今回の超増刊で特にピックアップしたいマンガとして、「己棲虫」(岡田きじ)の名前を挙げておきます。
時は大正時代、寄生虫を研究している書生風の主人公が、人の念が生み出した「己棲虫」と呼ばれる寄生虫に関わる事件を解決していく――という趣向の作品です。寄生虫が物語のキーとなるので、当然マンガの中にはそういう系統の虫が沢山出て来るのが特徴。例えば、
など、想像するだけでもちょっとアレなシーンの数々が、ゴシックホラー調の絵柄で綿密に描き込まれているんですから、そりゃもうインパクトは抜群。これはちょっと凄いです。読んでて体が痒くなること請け合いですよ!(誉めてます)
物語のロジックそのものは「寄生虫」を「悪霊」などに差し替えれば割とよくあるタイプのものなのですが、「己棲虫」のビジュアルのグロさを活かすことで、このマンガを他のマンガとは違う独特な味わいを持たせることに成功していると思います。
特に、己棲虫を単なるアイテム扱いするのではなく、(絵柄や時代設定、己棲虫が生じるメカニズムなどを含めて)作品世界が醸し出す雰囲気そのものが、寄生虫なる存在が持つ生理的に不気味なイメージを最大限に増幅するように計算されているところに感心させられました。作者のセンスは相当なモノなんじゃないのでしょうか。
個人的にはこういう雰囲気のマンガは大好きなので、ぜひこの作品世界のマンガをもう一本読んでみたいとは思うんですけど、どう考えても寄生虫は少年マンガ向けの題材ではないので、少なくともサンデー本誌ではこのマンガの人気が出なさそうなのが残念でなりません。
このマンガが広く受け入れられる為には、『子供に大人気な「ムシキング」に寄生虫が登場!
』みたいな、社会的なパラダイムシフトが発生する必要があると思いました(無理)。
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あと、もう一つ挙げるとすれば、「BABEL」(原作/浜中明、作画/杉信洋平)でしょうか。
このマンガは、「己棲虫」とは違った意味で普通じゃないので気になりました。
『部活動中に突然現れた怪物に襲われて倒された剣道部員の主人公が、何故かバベルの塔の最深部で復活。カーミラと名乗る吸血鬼から「私の部屋までたどり着ければ、何が起こったのか教えてあげる」と言われた主人公は、彼女の声に導かれるままにバベルの塔の探索を開始する
』――というのがこのマンガのあらすじなのですが、これだけでもこのマンガのただ事じゃなさ加減は判って頂けると思います。
作品世界の設定があまりに過剰で説明過多なのもあってか、読んでいてもの凄い不思議な(というか、不条理な)感覚に囚われること請け合い。
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