ピアノ・ファイアのいずみのさんが、「絶対可憐チルドレン」連載開始に対するコメントを述べられていました。
せっかくの機会なので、いずみのさんのコメントをダシに、もうちょっと今の自分の「絶チル」に対する現在の何とも言えない思いを文書化してみることにします。
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ピアノ・ファイア: 絶チルはラブひなだ より
そこをあえて週刊少年サンデーで連載するということは、「子供などの一般読者に読んでもらいたい」あるいは、「サンデーにSFコメディを復活させたい」という願望が込められている筈です。
そこには「自分が描いているものは大衆(=子供から大人まで)が好む要素がどこか必ず含まれている筈だ」という希望が込められている筈です。
椎名先生は「てれびくん」で「ウルトラマンネクサス」のコミカライズを担当していましたが、そこでの経験から「自分のマンガは子供相手でもヤレる!」という自信を深めたのではないか、という気がしています。
椎名ネクサスを読んだことがある人なら判っていただけると思いますが、あのマンガは子供読者に対して全く容赦せず、ストーリーや作品のテーマも基本的に原作の(残酷な部分も含めた)テイストをできるだけ活かすような形で表現しています。あえてそうした理由は、いったい何処にあったのでしょうか。
その理由と思われる発言を、以前「宇宙船」3月号に掲載されたインタビューから抜粋します:
――(「ウルトラマンはしゃべらない」と感情表現を排除する宣言をしているが? という質問に対して)
「(前略)喋った方がわかりやすいしハナシ早いですもんね。
でも今はそのままやっても読者は普通についてきてくれますから」
「そのままやっても読者は普通についてきてくれますから」!
幼児向けマンガにしてこの強気の発言。この部分に、椎名氏の読者に対する信念が垣間見えます。椎名氏は「子供向け」だからと表現を判りやすくするのではなく、「読者は判ってくれる」と判断した上で、自分の考えた「ウルトラマン」の魅力を画として子供達に表現することを注視したのです。
自分から子供におもねるのではなく、子供を自分のマンガの位置まで引き上げようとする意志を感じます。
「絶対可憐チルドレン」も、椎名氏自ら「週刊少年誌作品としてはいくつか文法違反がある
」と自覚しているにも関わらず、読み切りの頃から現在に至るまでまったく妥協することなくハードなSF路線を貫き通していますが、その根拠にはネクサスの時と同様の「例え週刊少年誌作品の文法から外れた部分があっても、読者はついてきてくれるから大丈夫」という考えがあるからなのではないか、と思います。
つまり椎名氏は、(子供も含めた)我々読者の知性を信頼してくれているんですよ。我々にとって、こんなに嬉しいことはありません。
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これは『武装錬金』の和月伸宏とは根本的に異なる点で
「絶チル」の辿る運命が「武装錬金」と同様になるのではないか? という私の懸念ですが、これは連載の経過や作者の掲載誌に対する姿勢などはともかくとして、『結果的にそうなりかねないなあ』と思っているところから来ています。
駒木氏は、「武装錬金」に対する懸念として「週刊少年マンガ誌の限界」(クオリティの高い話を、週刊ペースで、かつ制約が多い少年マンガの枠内に収めることは、作品のテーマを考えると難しい)、「ジャンプシステムによる弊害」(いくら物語の質が高くても掲載誌のシステムには逆らえない)の二つをあげていますが、今のサンデーで「絶チル」を連載する上でも、やはり似たような問題があると考えます。
「絶チル」が内包しているテーマは、「人種差別」「力を持つ者の義務と責任」「自分とは違う『他者』に非寛容な社会への警鐘」「希望が見えない未来を変える可能性の模索」など、どれもこれも『銀の弾丸』が存在しない、真面目に考えれば考えるほどやっかいなものばかりです。これを単なるフレーバーとして使うのではなく少年マンガとしての「テーマ」に据えるからには、マンガの中でこれらの問題に対するそれなりのソリューションを提示し、読者に『希望』を与える必要があります。よりによって週刊少年サンデーで。
もし自分が担当編集者だったら、絶対頭抱えてますね。椎名氏の担当に生まれなくて本当に良かったです。
まあ、この辺については、それこそエンターテナーでありストーリーテラーである椎名高志氏の手腕を信頼するしかありません。
期待してます先生!(←前にあんなこと書いておいてコレか)
前に例えに出した「愛人 -AI・REN-」も割と上記に近いテーマを掲げた作品だったのですが、田中ユタカ氏がエロマンガで培ったヒューマニズムを最大限に発揮した結果、キチンとこれらのテーマに対する希望を提示することに(エンターテイメントの枠内に収まる形で)成功しています。
同様のテーマを描いたマンガで他に「これはすごい」と感心したのは、サンデーGXで連載されていた「ネコの王」(小野敏洋)でしょうか。何故か「禁断のブルマ魔法」以外で語られることが少ないマンガなのですが、実は色々と考えさせられる奥深さを持っていると思います。
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絶チルがサンデーでヒットするということは、ラブひながマガジンでヒットすることと同じような意味がある、と言えなくもないでしょう。少年誌に風穴を開ける、という。
「ラブひな」が当時のマガジン(ひいては、ティーンエイジを対象にした少年漫画全体)に大きなパラダイムシフトを起こしたことは事実です。しかし、当時の「ラブひな」と今の「絶チル」とでは、置かれている状況がかなり異なるのではないかと思っています。
「ラブひな」の場合、当時はギャルゲー的なノリが通じるマイナー雑誌でしか通用しないムーブメントとして見られていた「美少女わんさかコメディー」の概念を、あえて週刊少年誌に大々的に持って来て勝負したというところが凄かったと思うのですが、少なくとも当時の赤松氏には「時代は確実にこっち側に来ている。だから勝てる
」という読みがあったはずです。
しかし「絶チル」の椎名氏の場合、「時代はむこう側に行ってしまった
」と考えている様子。現状の自分(の作品)が置かれた状況に対し、かなり厳しい見方を示しています。
完成原稿速報040726 より
さて、この作品、かつてないほど入れ込んで描いてます。しかしそれがウケるかどうかというと、実は全然自信がありません。もともと「チルドレン」には週刊少年誌作品としてはいくつか文法違反があり、そこんところでこの数ヶ月すったもんだしてたんですが、結局その問題はほとんど改善されてないままなんですね。
完成原稿速報040813 より
改造の件といい、スピンちゃんの件といい(笑)、我々大きいお友達にとって少年誌はもうあまり居心地のいい場所ではないのかも。
おそらく椎名氏は、自分が描くタイプのマンガが、今の少年誌が求めているマンガとはちょっと離れた場所にいることを自覚しているものと思われます。
特にサンデーの場合、前編集長時代は「子供のための子供向けマンガ」に必要以上に拘っていたフシがあったようなので尚更でしょう。例え作者が「通じる」と信じていても、雑誌編集部が「通じない」と思ってしまえばそれまで。厳しいですね。
更にサンデーに限って言えば、前作「一番湯のカナタ」が結果的に惨敗となってしまったことも、編集部として厳しく椎名氏に当たらざるを得ない状態に繋がっているでしょう。再び少年サンデーという舞台に戻ってくるためには、3年の歳月と、その間の数多くの短編作品での実績が必要だったのです。
サイトでは「俺が打ち切られたら、誰かがあとをついでくれ。光は絆だ。
」と冗談めかして書いてはいますが、たぶんこれは椎名氏の偽らざる本心です。本心。
「絶チル」は、氏が光と信じる「背骨の通った美少女SFコメディー」を具現化したものであり、そしてこの系統の作品を心から必要としている読者は必ず存在しています。もし「絶チル」がいずみのさんが言うところの『少年誌に風穴を開ける
』結果に繋がらなくても、それを必要としている読者がいる限り、SFコメディーの意志は「絶チル」に影響を受けた他の漫画家に受け継がれて行って欲しい。
そんな願いをかけてしまうほど、今の椎名氏は今の状況を自分にとって相当不利だと考えているように思えてなりません。
新連載に挑む今の椎名氏の心理は、「斑鳩」(D-LIVEじゃなくてシューティングゲームの方)の1面に出てくるメッセージに近いものがあるのかも知れません。というか、私は勝手にそう解釈しています。
嗚呼、斑鳩が行く・・・・・・
望まれることなく、浮き世から
捨てられし彼等を動かすもの。
それは、生きる意志を持つ者の
意地に他ならない。
浮き世=少年マンガのメジャージャンルから捨てられた彼等=椎名高志が、生きる意志を持つ者の意地=自身は面白いと信じているけど今ではすっかりマイナージャンルになっちゃったSF路線のマンガを描き続ける執念を抱きながら動き始める。嗚呼、絶チルが行く…
ここは本当に椎名ファンサイトなのでしょうか?(永遠の自問)
嗚呼、絶チルが行く… ウチの絶チル連載開始反応をダシにして、深沢さんの椎名高志観が提示されています。流石に納得することしきり。 事後的にこちらからフォローしたいことも多いのですが、まぁ結局アレは「どうせ喩えるなら、縁起のいい作品で喩えようじゃないか」と思ってやったものなので他意は無いのです(※ホンキでラブひなと同列に語れるとはチリとも思ってない)。 目標のハードルは高いですが、ヒットして欲しいなぁ(それでいて、肝腎の「普遍性」は見失わないで欲しいなぁ)という願いを込めつつ。 「普遍性の高いエ ...
ここのサイトを見るとサンデーが、椎名先生の漫画が2割増に楽しめるので感謝しています。
まだ1巻ですが愛人(アイレン)に感動しました。これからも素敵な本はここで知ることになるんだろうな。
本が読み手の思考を全て吸い出せたら、未熟から表せない好きや喜びが本から伝って全て表れたら、自分でも気付かない楽しみ方があるんだろうけどな~。アンケート出さんでもいいし。
>葵色吐息さん
ステキなコメントありがとうございました。
これからも、サンデーや椎名高志作品をより楽しめるためのサイトでありたいと思います。
本が自分の思考を全て吸い取って作者や同じ本を読んだ読者に伝えてくれたら楽なんですけど、私の場合は色々とロクでもない妄想まで本を通じて他人に知られてしまう恐れがあるのでヤバいです(ヤバいのか)。
まあ、妄想を何とかこんな形にして吐き出す過程が楽しいってのもあるので、こんなサイトやってるんですけどね。
これからもよろしくお願いします。
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