『黄薔薇のつぼみ』の中目録を持つ島津由乃は、秋になってもまだ妹を見つけられないでいた。
「山百合会の看板に泥を塗られ申した!」
「一刻も早く妹を見つけねば! まごまごしていると江利子さまが嘲笑いはじめ申す!」
「物笑いになってからでは遅い! 一度潰れた面目は二度とは戻りませぬゆえ!」
「一応の妹を立てる」
私の頭の中では何故か「シグルイ」と「マリみて」が不可分の関係になっているため(理由)、シグルイ4巻を購入した直後、不覚にもまだこのサイトで「妹オーディション」の感想を書いてないことを思い出しました。なので今更ながら書きます。
もうすぐ次の新刊「薔薇のミルフィーユ」が発売されるので、次刊への期待も込めて。
(一応注意:以下は「妹オーディション」のネタバレをバリバリ含みます)
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「妹オーディション」の表面的な主人公は島津由乃なのですが、真の主人公はやはり福沢祐巳。
そんな巻でした(感想)。
福沢祐巳というキャラは、物語の焦点が「祐巳の妹は誰になるのか」という点に移った時期(「涼風さつさつ」以降)から、「仲間のことになると気が利くけど、自分のことになるとまるっきり鈍感」というキャラクター性を持つようになります。
この巻は、彼女のそんなキャラクター性が、余すところなく発揮されていました。
まず前者の「仲間のことになると気が利く」ポジティブな側面に関しては、茶話会に参加して来た内藤笙子に対して「彼女が求めているものは、山百合会ではなく武嶋蔦子だ」ということを直感的に見抜き、この二人を掛け合わせるために様々な策を講じて暗躍した、物語後半の活躍が強く印象に残ります。
また、ミスをした下級生にミスを指摘しつつ的確なリカバリー方法を指示したり、結局落選した妹候補達にフォローを入れ、彼女たちの今後の山百合会に対するわだかまりを軽減する努力をするなど、下級生に対して細やかな気配りができるようになったことを読者にさりげなくアピールしている点も、小さい部分ではありますが見逃せません。
これらは、彼女が『紅薔薇さま』として生徒達をまとめる能力を既に有しつつあることを、端的に示していると考えられます。
由乃の妹となるべき運命を授けられた少女・有馬菜々が中学三年生であったことから推測できるように、「マリア様がみてる」という物語は彼女たちが「薔薇さま」と呼ばれる立場になった以降も継続することがほぼ確実な情勢なのですが、そういう意味でも「福沢祐巳は下級生に人気がある」という(これまでは単に文章で説明されている程度だった)設定を補強し、彼女がいずれ最強の薔薇さまと呼ばれるだけの才覚を持つことを印象付け、将来の更なる成長を読者に期待させる意味合いもあったのかも知れません。
かつて水野蓉子が夢見た「一般生徒で賑わう薔薇の館
」を実現できるのはおそらく祐巳だけですし、彼女ならおそらくそれを成し遂げてしまうでしょう。「マリア様がみてる」には山百合会というソロリティを舞台にした学園物語という側面を持ち合わせていますが、その物語に『ゴール』があるとすれば、そのうちの一つは間違いなくこれになるのではないかと思われます。
その一方、「自分のことになるとまるっきり鈍感」というネガティブな側面については、祐巳にすっかり恋い焦がれるようになってしまった松平瞳子の苦悩という形で、より明確に現れて来ています。
祐巳が「自分の妹候補」を探すために茶話会を開いたという事実は、瞳子の目には「祐巳は自分を妹候補として特別視していない」サインとして映ったはずです。彼女はこのサインに対し、茶話会への参加をかたくなに拒否するという形で応えました。
見かねた乃梨子が遠回しな表現で「茶話会を開くことが瞳子にとって何を意味しているのか」を祐巳に伝えたのですが、鈍感な祐巳には全く届かず、逆に瞳子の無念を想った乃梨子が涙を流す羽目に。
祐巳は、これまで瞳子に対して『優しく』接して来た結果、彼女が自分に対してどんな感情を持つようになったのか、まったく気付いていません。というか、今の彼女ではそのことを想像すらできないでしょう。誰にも分け隔てなく優しさを振りまけられるところが祐巳の長所ではあるのですが、それ故に祐巳との「二人だけの特別の関係」、すなわち姉妹関係を望む者にとっては、その優しさが自分だけに向けられたものではないことを妬ましく感じるはずです。
自分にとってその人は特別で、その人も自分を特別な人として見て欲しいのに、その人から見れば自分は特別でも何でもない。その人の優しさはその人自身の中から来ているものに過ぎず、決して優しさを向ける相手が自分だからではない。それが判っているが故に、優しくされるのが辛い。それが今の瞳子の状態なんだと思います。
あの瞳子をここまで悩ませるだなんて、祐巳ちゃんもすっかり罪作りな女になっちゃいましたよねえ。
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まもなく刊行される「薔薇のミルフィーユ」は、本の構成が各薔薇ファミリーを主人公にした短編が一話づつ、合わせて三話の構成になることが既に告知されていますが、これはあの「レイニーブルー」と構成が全く一緒であり、ファンの間からは「次の巻は、瞳子にとっての『レイニーブルー』みたいな位置付けの話になるのではないか
」と噂されているとかいないとか(どっちだよ)。
「妹オーディション」でストーリーが大きく進展した後だけに、どんな話になるのか楽しみです。
とりあえず今の段階で確実に言えることは、今度の夏のコミケで「脱ぎかけ制服な格好で『撮って撮って』と蔦子に迫る笙子の姿を描いた同人誌
」が必ず出てくることですね。見つけたら買います。勿論、乃梨子×瞳子本も見つけたら買います。
fukazawaさん始めまして
いつも What's New 楽しく読ませてもらっています。特に漫画や小説に対する独自の深くて面白おかしい解釈については、笑いながら感心して呼んでました。
今回も「マリア様がみてる 妹オーディション」の感想を読んだあと、小説の方を読み直してみて、冒頭の15ページに祐巳視点で
『例えば、スタートは令さまへの憧れだったけれど、その気持ちがだんだん進化していって、由乃さんのことも好きになった、とか』
という文章が書かれてあるのを見て大笑いしてしまいました。
ああ、これがfukazawaさんが言っていた、
>「仲間のことになると気が利くけど、自分のことになるとまるっきり鈍感」というキャラクター性
だったのか。作者の今野緒雪さんも、確信犯でこの文章を書いたのでしょう。
これからもよろしく頑張ってください。
お返事が遅れましたが、いつも読んで下さってありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
自分がモテていることに一向に気付けない祐巳ちゃんの鈍感っぷりは、もはや危険な領域にまで達しているんじゃないかと思います。指摘の台詞は、祐巳がそのことにまったく気付いてないことの現れですよね。
瞳子はすっかり祐巳への思いをこじらせちゃっててこれから大変でしょうし、祐巳は祐巳で妹問題を解決できずにグズグズしているうちに、最新刊「薔薇のミルフィーユ」では今後更にややこしい事態が起こることを予兆させる描写まで出てくる始末。祐巳ちゃんがこれから乗り越えないといけない試練は、これまで以上にハードになりそうです。
今野緒雪先生はひどいなあ(笑)。
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