2005/08/04

■月刊少年シリウスとテレパシー少女蘭

 ゲツカンシリウス!(挨拶)

 カタカナで書くと西尾維新の小説のタイトルっぽく見えるテスト終了。こんにちは。
 講談社から5月に創刊された「月刊少年シリウス」。「コミックと小説の新世代ハイブリッドマガジン」を標榜、ラノベ大好きな少年少女を狙い撃った雑誌という触れ込みの割には、現段階ではどうも「読めば面白いがひたすら地味」という評価を頂いてしまうレベルの知名度に甘んじてしまっている模様です。

 そんなシリウスに現在連載されている、『テレパシー少女「蘭」 ~ねらわれた街~』(原作:あさの あつこ/漫画:いーだ俊嗣)というマンガが個人的に相当ツボに入ってしまい、居ても立ってもいられなくなってしまったのでご紹介します。

 このマンガは、『主人公の中学一年生・蘭(らん)のクラスに翠(みどり)という名の美少女が転校して来たのだが、実は彼女はテレパシーやサイコキネシスを操る超能力者であり、蘭に対して「あんたも私と同じ能力を持っている」と告げる』――という導入から始まり、蘭と翠が超能力で街で起こっている不思議な出来事に立ち向かっていくという筋書きの、SF仕立てのミステリーです。
 「テレパシー少女」「転校生」「謎の美少女」「ねらわれた街」といったテクニカルタームから推測できるように、いわゆるジュヴナイル小説のテイストがかなり強いです。これを初めて読んだ時は、何だか子供の頃に読んだ「なぞの転校生」や「ねらわれた学園」と雰囲気がどことなく似ているなあ、と思ったんですけど、このマンガの原作となっている小説「ねらわれた街」を調べてみたところ、児童向け文庫の講談社青い鳥文庫に収録されていると知って納得。

 「青い鳥文庫」の方では童画家の塚越文雄氏によるイラストが如何にも「児童向け」な雰囲気を醸し出しているのですが、月刊少年シリウスは基本的に西尾維新や田中芳樹の小説が大好きな中高生以上の年齢がターゲットとあって、キャラクターデザインはかなりソレっぽいものにチューンナップされています。詳しくはシリウス公式サイトの作品紹介ページを参照。このイラストだけでやられる人も多いんじゃないんでしょうか。マンガ版の作者のいーだ俊嗣氏のセンスの良さを感じます。

 そして何より素晴らしいのが、「なぞの転校生」として登場した翠のツンデレっぷりです。ツンデレ。
 彼女は、自分が超能力を持っていることで両親から疎まれるようになって現在は家族と別居しており、それ故に自分と同じ能力を持つ人間を探し求めていた――というバックグラウンドがあり、彼女にとって蘭はようやく見つけた「仲間」だった訳なのですが、でもそういう生い立ちに起因する弱みを見せまいとする意地っ張りな性格が災いしてか、最初のうちは蘭に対して素直な態度が取れません。
 本当は仲良くなりたいのに、プライドが邪魔して悪口を言ってしまう。ツンデレで言うところのツン状態です。

 しかしそんな彼女も、翠の心情を察した蘭の「ひとりじゃないよ…翠」という言葉で陥落。人と違う能力を持って生まれ、常にさみしさや絶望に苛まれてきた翠は、その時初めて自分を自分として真正面から受け止めてくれる人に出会えたことを知り、蘭に心を許すようになります。
 更に二人の周りで次々と奇妙な事件が起こり、この街が謎の「敵」に狙われていると知った二人は、超能力を駆使して共に戦う盟友状態の関係にまで一気に進展。ツンデレで言うところのデレ状態への移行です。

 つまりこの作品は、タイトルこそ「テレパシー少女蘭」となっていますが、「テレパシーツンデレ少女翠」として読んでも十分に楽しめるものになっているのです。ツンデレエスパーですよツンデレエスパー。しかもツンデレ対象は同い年の少女。百合っぽいです。同じエスパー少女マンガの「絶対可憐チルドレン」にすらない要素が満載ですよ!(うるさいよ)

 他にも翠は、普段はツンと澄まして綺麗な標準語を話すんだけど興奮すると急に関西弁になって一気に感情を爆発させたり、強力なサイコキネシス能力を持っていながらそれをクラスメートの首筋をサイコキネシスでつねっていじめるという極めて陰湿な使い方をしたりと、歪んだ性格の女性キャラが大好きな自分にとっては、もうやることなすこと全部ツボです。辛抱たまりません
 斯様に萌え萌えなキャラクターが児童文学の世界に存在していただなんてちょっと凄いよ! と思いましたが、でも本当に凄いのは、自社の児童文学の中から少年マンガの原作として立派に通用する作品を見つけ出し、その作品を適切な画風を持った漫画家に託して「少年マンガ」としてのフレーバーを与えることで作品の潜在的な魅力を引き出すことに成功した、雑誌編集者のセンスの良さにあるのではないのでしょうか。
 ちょっと大げさな表現になりますが、「テレパシー少女『蘭』」は、「コミックと小説の新世代ハイブリッドマガジン」というこの雑誌の路線を象徴している作品なのではないか、と思いました。

 シリウスには、他にも「ぼくと未来屋の夏」(原作:はやみねかおる/漫画:武本糸会)、「夏の魔術」(原作:田中芳樹/漫画:ふくやまけいこ)の小説原作シリーズがありますが、どの作品もかなり良質かつ面白いマンガになっています。漫画界には原作を書ける作家が不足している、だなんてことが言われているそうですが、原作のノベルと漫画を結びつける手法を雑誌の大きな「売り」として掲げた月刊少年シリウスの作戦は、現状の原作不足に対する一つのソリューションとして興味深い事例になるかも知れません。

 ――というか、ここまで萌えるツンデレがいるのにネット上であまり話題にならないこと自体が、月刊少年シリウスが地味な雑誌の地位に甘んじていることの証明になっている気がしてならないのですが。「テレパシー少女 シリウス」でググっても54件しかヒットしないだなんて何事ですか! こんなに萌えるのに! こんなに萌えるのに!(連呼) もっとがんばって売り込め講談社!
 今本屋で売ってるシリウス9月号には、翠が蘭に対して「ツン」から「デレ」に状態遷移する決定的なイベントが収録されているので、そういうのが大好きな方はチェックを! せめてこのマンガがコミックス化されるくらいまでは雑誌が存続してくれないと困りますからね!(ドクロ)

 あと、来月号からは「暗号名はBF」の田中保左奈先生の新連載「乱飛乱外」も始まるので、とりあえずここのサイトを覗いているようなタイプの人はチェックしてみる価値はある雑誌なんじゃないか、と思いました。終了。

ねらわれた街―テレパシー少女「蘭」事件ノート〈1〉 (講談社青い鳥文庫) ねらわれた街―テレパシー少女「蘭」事件ノート〈1〉 (講談社青い鳥文庫)
あさの あつこ
講談社 / ¥ 609 (1999-03-15)
 
発送可能時間:在庫あり。

「青い鳥文庫」の原作版。
ライトノベル発祥以前の、往年の児童向けSF小説の雰囲気が好きだった方なら楽しく読めると思います
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